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ペプチドリームや富士通ら、新型コロナ治療薬開発の合弁会社設立

東大発バイオベンチャーのペプチドリームや富士通などが、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的とした新会社「ペプチエイド」を設立した。治療薬の開発候補化合物同定に取り組んできたペプチドリームのノウハウに加え、組合せ最適化問題を高速に解く富士通の「デジタルアニーラ」などのITも活用し、開発期間の大幅短縮を狙う。


 ペプチドリームや富士通などは2020年11月12日、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的とした新会社「ペプチエイド(PeptiAID)」を設立した。富士通が持つ、組み合わせ最適化問題を高速に解くことができる「デジタルアニーラ」やHPCなどの技術も活用することで、新薬研究開発スピードの加速を図る。

(左から)ペプチエイドの舛屋圭一社長、富士通の長堀泉執行役員常務、みずほキャピタルの大町祐輔社長、竹中工務店の野村信一常務執行役員、キシダ化学の岸田充弘社長

新型コロナ治療薬の開発期間「大幅短縮」を狙う新会社

 新会社であるペプチエイドの資本金は5億9900万円。ペプチドリームと富士通が25%ずつ、みずほキャピタルが24.5%、竹中工務店が16.7%、キシダ化学が8.3%を、それぞれ出資する。本社は神奈川県川崎市に置く。

 東京大学発のバイオベンチャーであるペプチドリームでは、同社独自の創薬開発プラットフォームシステム「PDPS(Peptide Discovery Platform System)」を活用して、新型コロナウイルスがヒト細胞に侵入する際に必須となるスパイクタンパク質における複数の領域から、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発候補となる化合物の同定を行ってきた。さらに、複数の企業や研究機関との間で、迅速な開発に向けた協業のあり方について協議を進めてきたという。

 新会社のペプチエイドでは、ペプチドリームから新型コロナウイルス感染症治療薬の候補化合物に関する経験や実績、資産の譲渡を受け、前臨床試験からヒトでの有用性確認(PoC)に必要となる臨床試験の前期までを、最短で実施することを目指すという。

 ペプチドリームが有するペプチド関連技術やノウハウの活用に加えて、富士通のデジタルアニーラやHPCといったITも活用することで、研究開発スピードを加速。必要な試験を同時並行で進めることで、開発期間の大幅短縮を狙う。また、臨床試験の後期以降は、各地域で高い開発力を有する製薬企業との共同開発などを通じて、開発タイムラインの最適化や早期実用化を目指すことになる。

ペプチドリームの知見と富士通のデジタル技術を通じて「最短での臨床開発開始を目指す」

 ペプチエイドの代表取締役社長に就任した舛屋圭一氏は、新型コロナウイルス感染症を克服するためには、感染予防のワクチンだけでなく疾患を適切にコントロールする治療薬の存在も不可欠だと説明。高い有効性を持つ治療薬への社会的ニーズが高まっており、そこに貢献したいという課題認識は、製薬業界のみならず「業界を超えた共通の思い」だと述べた。

 「(ペプチエイドの設立には)同じ志を持った企業に参加してもらった。いまはスピードが優先であり、スピード優先で集まることができた企業でスタートした」「大切なのは『時間』だ。年内には開発候補化合物の同定を目指しており、最短で2021年秋、遅くとも2021年中には、臨床開発に入ることを想定している。また、年明けをめどに、後期臨床試験を共同で行う日欧米の製薬企業大手との会話を始めたい」(桝屋氏)

新会社立ち上げの背景と目的。業界を超えた「思い」を持つ企業が迅速に集まり、新会社を立ち上げた

創薬、製造、物流――多方面で活用されるデジタルアニーラ

 ペプチエイドの治療薬開発に活用される富士通のデジタルアニーラは、イジングモデルで表現された組合せ最適化問題を高速に解くことができる計算機アーキテクチャ。現在は8192bitのビットサイズまで、クラウド/オンプレミスのサービスとして提供している。

 デジタルアニーラは、すでに創薬のほか、製造や物流、災害対策など、さまざまな領域で最適化問題に適用されている。具体的には、全国規模の輸配送計画、都市圏の交通渋滞の解消、ニューノーマル時代に適したワークシフト計画など、実社会にあるさまざまな大規模組合せ最適化問題に適用が可能だという。なお富士通では先ごろ、トロント大学との共同研究により、1Mbit規模の大規模問題に対応する新たな並列探索技術の開発も発表した。

デジタルアニーラは大規模な組合せ最適化問題を高速に解くためのコンピューターだ(画像は富士通Webサイトより)

 富士通 執行役員常務の長堀泉氏は、富士通では2019年からペプチドリームとともに、デジタルアニーラを活用した創薬リードタイムの短縮に取り組んできたと語る。今回はこの関係からさらに踏み込み、新型コロナウイルス治療薬の開発に向けた新会社設立に参画することにしたという。

 「富士通では今年(社員行動規範である「Fujitsu Way」を改訂し)、新たに企業としてのパーパス(目的)を定めた。ここでは、『イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと』を目指している。新会社はこの主旨に沿うものであり、企業が取り組むべき重要な社会課題であると認識している」(長堀氏)

 富士通ではこれまでのペプチドリームとの共同研究の成果を生かし、デジタルアニーラやスーパーコンピュータによりシミュレーション技術を活用して、治療薬の開発候補化合物を探索するプロセスの短縮、加速に貢献していくとしている。さらに長堀氏は、創薬プロセスにおける課題の発見と解決にも取り組み、「創薬プロセスそのもののデジタルトランスフォーメーションを実現できるプラットフォームを確立したい」と述べた。

 また、みずほキャピタル 社長の大町祐輔氏は、同社が今年1月、先端医療の開発に取り組むイノベーション企業への資金支援強化を目的とした「みずほライフサイエンス1号ファンド」を設立し、6月には100億円に増額したことを紹介。「新型コロナウイルスの治療薬を早期に医療現場に届ける社会的課題の解決に取り組む事業者に支援することは、このファンドの趣旨に合致する」と述べた。

 竹中工務店 常務執行役員の野村信一氏は、街づくりを目指す同社グループでは、人々が安心、安全に暮らすことに貢献することを企業理念としており、サステイナブルな社会の実現も目指していると説明。「感染症治療薬のニーズが高まるなか、新会社の高い志と、出資企業が持つ高い知見や技術によって、社会が直面する課題を解決することは、安心、安全な街づくりにつながる」と語った。さらに、キシダ化学の岸田充弘社長は「新会社は、必ず新たな薬を作ってくれると期待している」などとコメントした。

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